会社をソフトに合わせない記帳。AIで「うちの会社専用」が当たり前になる
記帳代行をしていると、つくづく思うことがあります。会社って、ほんとうに一社ずつ違う。
同じ「交際費」でも、どこまでを交際費にするかは会社の方針で変わります。社長のポケットマネーと会社のお金の境目も、口座の使い分けも、会社ごとに癖があります。レシートの裏に従業員のあだ名だけが書いてあって、それが誰かは、その会社を知っている人にしか分からない、なんてこともあります。
汎用ソフトは、会社をソフトに合わせさせる
月額の会計ソフトは、たくさんの会社が同じように使えるように作られています。それはソフトとして正しい作り方です。
ただ、その裏返しとして、会社のほうがソフトの型に合わせることになります。型からはみ出す会社の癖は、取り込むたびに人が見て、直すしかありません。どんなに便利なソフトでも、取り込んだあとの確認がいらなくなることはありません。
AIで、「うちの会社専用」が安く作れるようになった
これまで、会社ごとに専用の仕組みを作るのは、お金がかかりすぎて現実的ではありませんでした。だからみんな汎用ソフトに合わせてきました。
AIが来て、ここが変わりました。うちではいま、顧問先ごとに「この会社の記帳はこうする」という手順書を作って、AIに渡しています。
- この会社は、この科目をこう使う
- この会社のレシートに出てくるあだ名は、この人
- この会社で過去に起きた間違いは、これ
昔の記帳の担当者が頭の中に持っていた「この会社はこう」を、そのまま手順書に残しておけるようになった、という感じです。担当者が変わっても、その会社の癖は消えません。
誤解のないように書いておくと、AIにしたからといって確認がいらなくなるわけではありません。うちでは通帳の残高で読み取りを検算して、合わないところだけ人が見ています。確認は残る。でも、人が全部を覚えていなくていい。ここが楽になったところです。
道具は一つ、ルールは会社ごと
全部を会社ごとに作ると、今度は法律が変わったときに大変です。税率が変わったら、全社の手順書を一つずつ直すことになってしまう。
なので、分け方を決めています。
| みんな共通(道具) | 会社ごと(道具に渡すルール) |
|---|---|
| 通帳を読み取る仕組み | 毎月の記帳のルール |
| レシートを取り込む仕組み | 必要な証票 |
| 決まった場所に整理してしまう仕組み | 会計ソフトに合わせたCSVの形 |
| 取り込みデータの形・税区分の書き方 | 仕訳の科目の使い方 |
| 通帳の残高で検算する仕組み | 過去に起きた間違いのリスト |
| AIにやらせないことの決まり |
道具は一つでいい。通帳を読む、レシートを取り込む、決まった場所にしまう、残高で検算する。ここは全社同じです。会社ごとに違うのは、その道具に渡すルールのほうです。
「AIにやらせないことの決まり」も、全社共通にしています。中身は主に個人情報の守り方です。従業員の名前や口座番号、マイナンバーのような情報は、AIに読ませる前に伏せる。顧問先の書類は、その会社の処理のためだけに使い、ほかの会社の処理に混ぜない。決めた保管場所の外には出さない。AIに会社のお金と人のデータを触らせることに不安があるのは当然で、何を見せないか・どこから出さないかを先に決めておくことで、その不安に答えています。
こう分けておけば、法律が変わったときに直すのは道具側だけ。会社ごとの手順書は、増えるほど強くなります。
データは手元に。会計ソフトはいつでも乗り換えられる
もう一つ大事にしているのは、仕訳のデータを手元に残すことです。
うちで作る仕訳のデータは、多くの会計ソフトに取り込める素朴な形にしています。ある会計ソフトの中にしかデータがない状態だと、値上げがあっても、使いにくくなっても、なかなか出られません。手元にデータがあれば、ソフトは道具として選び直せます。
まず、「うちの会社はこう」を書き出してみる
専用の仕組みと言っても、入り口は難しくありません。うちが顧問先ごとに作っている手順書も、中身は次の4つの束です。
- 毎月の記帳のルール(締め日、誰が何をいつまでに、現金と口座の分け方)
- 必要な証票(何が揃えば仕訳できるか。レシート、請求書、通帳、カード明細)
- 会計ソフトに取り込めるCSVの形(列の並び、日付の書き方、ソフトが読める形に揃える約束ごと)
- 仕訳の科目の使い方(この支出はこの科目。迷いやすいものは、会社としてこう決めた、の記録)
これを一度文字にしておくと、ソフトを替えても、担当が替わっても、会社の癖は残ります。AIに手順書として渡すのは、その次の話です。
毎月の利用料に縛られない記帳。会社に合わせた処理。データはいつも手元に。まずは、自分の会社の「こう」を書き出すところからです。

